活性酸素とDNA

好気性生物は酸素の持つ強い化学反応力を利用して様々な代謝反応を行い,その結果得られるエネルギーを利用して生命活動を営んでいる。酸素は,このように生物にとって有用な物質であるが,反面,その反応性の高さに由来する毒性によって生体に障害をもたらす。酸素障害の作用分子種は活性酸素と呼ばれ,生体内における酸化還元反応の副産物として生じる。多くの生命現象は,酸素の利用とその反応の副産物として生じた活性酸素の消去という微妙なバランスの上に成
り立っているが,ひとたびそのバランスが崩れると余剰に生じた活性酸素は脂質,多糖,タンパク質,核酸など生体内のあらゆる成分を攻撃する。生物は,酸素障害から身を守るために活牲酸素を生成しない反応系,生成した活性酸素の消去系を長い進化の過程で獲得してきた。さらに,これらの防御機構をくぐり抜けて生じた活性酸素による障害に対する修復系,再生系をも備えている。しかし,それでも標的分子(脂質,タンパク質,核酸など)の酸化的損傷を完全に防ぐこ
とはできない。このような損傷が老化やガン化の一因になると考えられている。

活性酸素は,あらゆる生体成分を標的にすることができるが,中でもDNAに与える損傷は,長期にわたって保存・蓄積され,その修復に際しては変異など遺伝情報の変化をともなうことがあるため重大である。さらに,遣伝子情報の変化は他の生体成分に影響を及ぼし,結果として細胞の異常分化や老化をもたらす可能性がある。

活性酸素によるDNA損傷

活姓酸素の中でもっとも反応性が高く生物にとって有害であると考えられているのは,ヒドロキシルラジカルである。ヒドロキシルラジカルは,過酸化水素を鉄などの遷移金属イオンで還元することにより生成する。この分子種は,DNA鎖を切断し,また,DNAを構成する4種の塩基のうちグアニンに損傷を与える。DNAは,決して反応性の高い有機物ではないが,ヒドロキシラジカルはそのDNAをところかまわず切り刻み,塩基の中でもっとも酸化的損傷を受け易いグアニンを攻撃する。このような強いDNA切断作用を利用して,最近では,DNAフットプリンティングや人工制限酵素などの遺伝子操作への応用が試みられている。ヒドロキシルラジカルは寿命が短いため,細胞成分と拡散律速に近い速さで反応することが多く,生成場所に標的分子があれば障害をもたらすが,そうでない場合には消去する。したがって,細胞質中に発生したフリーなヒドロキシルラジカルがDNAを攻撃できる機会はほとんどないと考えられる。生体内でDNAに損傷を与えるためには,制ガン抗生物質であるブレオマイシンのようにDNAとの相互作用によってDNAの極近傍で活性酸素を発生させるような“からくり”が必要である。